ふくおかフィナンシャルグループのDX推進と人材戦略
サマリー
- 銀行業界は古くからシステム投資を行ってきた
- システム開発、運用のプレイヤーは子会社が中心であった
- DX時代にあわせて、内製化や開発体制の変革を進めてきてアピールしている
- 採用でアピールすることで、デジタル人材の獲得を目指しています
企業の基本情報
- 企業名: 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
- 証券コード: 8354
- 2023年度経常収支: 2800億円
- 従業員数: 7,995人
- 事業内容: 福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行、みんなの銀行の5行を中心に様々な金融サービスを提供
銀行業界では、膨大な取引や顧客情報を処理するためのシステム開発が古くから行われてきました。
しかし、システム開発は内製化よりもシステム子会社を保有し、そこで開発運用されることが多かったです。
実際に、ふくおかフィナンシャルグループもFFGコンピューターサービス株式会社という子会社があり、そこで基幹システム等が開発・運用されていると想定されます。
引用: 2024年3月期有価証券報告書
銀行業の売上高に相当する経常収支で、地銀のトップであるふくおかフィナンシャルグループです。
東洋経済では、デジタル化を進める地方銀行として高く評価されており、特にネット銀行『みんなの銀行』の開業はフィンテック分野での先行事例とされています。
2021年にはネット専業銀行の「みんなの銀行」も開業させ、フィンテックでも先行する。
引用: 地方銀行の2023年3月期「経常収益」ランキングTOP20
銀行業がDXに取り組む背景
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レガシーシステムの問題 銀行には多くのレガシーシステムが存在します。 預金や融資など銀行業務を行う基幹システムは「勘定系」と呼ばれています。そして、そのシステム30年~40年前にメインフレームという大型コンピューターで構築されています。 そのメインフレームは日立や富士通、IBMが製造、販売、保守していましたが、撤退を決め、保守期限を迎えようとしています。 メインフレーム上に構築されたシステムは、時を経て、金融行政の各種制度への対応やツギハギ改修により、
- 仕様を分かる人がいないブラックボックス化
- ソースコードが肥大化、複雑化したスパゲッティ状態 になっています。それをオープン系とよばれる、Windows等のサーバ上に再構築する必要があるのです。
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ネット銀行の台頭 銀行は、駅前に支店を構え、各地にATMを置き、顧客に来てもらうスタイルが一般的でした。 しかし、ネット銀行の登場により、支店をもたず、インターネット上で完結するスタイルの企業が現れました。 特に、新たに口座を開く、若い世代はスマホで便利に使えるネット銀行をメイン口座として利用することが多いです。 また、支店などの固定費がかからないため、ネット銀行のほうが収益率が高いという構造的な問題もあります。 さらに、ネット銀行はデータ分析に基づく意思決定でサービスを進化させており、これが地銀にとって競争上の脅威となっています
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フィンテックへの取り組み 銀行に蓄えられた、個人の金融情報、取引先の決算情報など、様々なデータを保有しています。 それらの情報を元に新たなビジネスを展開するフィンテックへの取り組みが今後の事業展開を左右します。
これらの背景を元に、DXを推進するために銀行内やシステム子会社に組織が作られ、人材が異動していますが、それでも十分ではないため、デジタル人材の採用に力を入れています。
ふくおかフィナンシャルグループがアピールしている点
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内製化の強化 銀行システムの開発はシステム子会社を中心に多重下請け構造になっているというイメージが先行しています。 そういう構造の開発は厳しいことが多いため、ITエンジニアは避ける傾向があります。 ふくおかフィナンシャルグループでは、内製化の強化として、2022年4月にDX推進本部を持株会社に設置。 複数の地方銀行を持つグループとして、横串の開発を行える体制を構築しています。 実際に、次のように記載されています。
これは、従来の多重下請け構造を変革し、ITエンジニアにとって魅力的な職場環境を目指していることを示しています。 運用は子会社を使う可能性はありますが、企画開発は重要と考えて、エンジニアやデータサイエンティストなどの採用を行っていると考えられます。サービスの企画・開発などはFFG内部で担えるようにしたい
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アジャイル開発 ウォーターフォール型で長期間にわたる計画を遂行させるのは、ハイレベルなプロジェクトマネジメントスキルが必要です。 一方で、完遂できたとしても、ビジネス環境が変わり、顧客ニーズに沿ったものになっているとはわかりません。 そのため、Web系企業を中心にアジャイル開発が推進されています。 ふくおかフィナンシャルグループでも、アジャイル開発を取り入れ、顧客の反応をもとに継続的な開発を行っています。 実際に、「Wallet+」というスマートフォンアプリをリリースしています。 「Wallet+」のようなスマートフォンアプリを短期間で改善し続ける経験は、エンジニアにとって市場価値を高める大きな機会となります。 さらに、コードが与える影響を短時間で実感できることやアジャイル開発のスキル獲得によるキャリアアップなどメリットが多いです。
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テックリードとしてのキャリア 銀行のような大きな組織を経営していくためには、マネジメントとしてのキャリアが期待されています。 一方で、エンジニアは手を動かして、ものづくりをしたい人も多くいます。 Web系の企業では、テックリードと呼ばれるエキスパート職を準備していることがあります。 ふくおかフィナンシャルグループでも、同様の制度を整えようとしているようです。
長く続いている大きな組織の人事制度を修正するのは大変だと思いますが、そこに手を付けてDXを推進しようとしています。組織変革の必要性を理解し、実現に向けて取り組んでいます。入社後のキャリアに関しては、現状は経験を重ねるとマネジメント職に就く傾向がありますが、技術を突き詰めるキャリアパスも制度として整えています。まだ若い組織で、キャリアパスや仕組みづくりに関しても、一人ひとりの意見を取り入れ、自分たちでつくっていけるフェーズにあります。
こうした取り組みが進む中、福岡フィナンシャルグループが地域の特性を活かし、DX推進をさらに進めるためには、継続的な人材育成と組織文化の変革が不可欠です。
参考: アジャイル型の地方銀行DXとは
この記事の著者
R_IT戦略
ITストラテジストとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。政府系金融機関の勘定系システム再構築プロジェクトでは、複数チームの連携を強化し、設計と運用を主導。事業会社のマルチベンダー体制によるシステム開発では、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決を支援しました。
また、RPAやSaaSを活用した業務変革にも取り組み、業務プロセスの効率化や部門間の連携強化を実現。
ITストラテジスト協会(JISTA)正会員として活動しています。このサイトやXで、DXやIT戦略に関する情報を発信中です。
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