ロート製薬の現場DX:デジタル技術で時間を削減し、未来のサプライチェーンを革新
サマリー
- ロート製薬は多くの医薬品を製造している
- 医薬品製造は制約が多いため、それに伴い現場の課題も多い
- ロート製薬では、現場の改善活動をDXで強化し、2時間の作業を5分に短縮。さらに、デジタルトランスフォーメーションを通じてサプライチェーン全体の最適化を目指しています。
企業の基本情報
- 企業名: ロート製薬株式会社
- 証券コード: 4527
- 2023年度売上: 2700億円
- 従業員数: 7,259人
- 事業内容: ヘルス&ビューティケアの領域で医薬品やスキンケア製品の製造と販売
メンソレータムのリップクリームや目薬で有名な製薬会社のロート製薬。
その他、日焼け止めクリーム、機能性化粧品、サプリメントなども取り扱っています。
医薬品や人間の肌に使用されるものを製造するため、製造現場の品質管理は常に100点を求められます。
ある意味、無駄と思われたり、面倒と思われることも安全のために行われていると思われます。
医薬品製造は高い品質管理基準が求められ、法規制や安全基準への対応も不可欠です。
これらの課題を克服するため、ロート製薬は現場のDXを進めています。
2つの記事からデジタルオプティマイゼーション事例とデジタルトランスフォーメーション事例の2つがわかりました。
引用: 2024年3月期有価証券報告書
参考:デジタルオプティマイゼーションとデジタルトランスフォーメーションの違い
ロート製薬の工場改革:デジタルオプティマイゼーション
ロート製薬は三重県伊賀市に工場を構えます。
工場内では、常に改善業務が行われていますが、その改善の気づきはアナログ管理となっていました。
20年もの間、続けてきた改善活動。それ自体を改善し、データベースとすることで、製造ラインや製品チームを超えた情報共有が可能になりました。
従来、作業者が気づいた製造工程の無駄・無理・ムラ。そして、ヒヤリハットなどの情報。
それらの情報を集め、改善活動を行うことが一般的に行われています。
しかし、この情報の集め方は紙やExcelフォーマットなど、集計や共有がしづらいものでした。
ロート製薬では、サイボウズ社のローコードツールを使用して、気づきの回答フォームを構築。
誰でも、スマホ・タブレットで投稿が可能になり、今まで2時間かかっていた集計作業が5分で可能になりました。
また、データベース化されたことで、別のチームにも迅速に共有が可能になりました。
また、過去の気づきをストックすることで、同じような気づきに対する活動を検索できるようになり、改善活動が強化されるようになりました。
これは、デジタルオプティマイゼーション の事例と言えます。
「この取り組みにより、現場の2時間の集計作業が5分に短縮されただけでなく、過去の知見をストックし、同様の課題への迅速な対応が可能となりました。
引用: 収集作業が2時間→5分に ロート製薬が挑んだ、紙と手作業だらけの「工場改革」
ロート製薬の次世代工場:デジタルトランスフォーメーション
製造現場の工場でAIやIoTを駆使して効率化を進める動きは「スマート工場」と呼ばれます。
ロート製薬では2022年9月に三重県の上野工場内に新たな工場を新設しました。
そこでは サイバーフィジカルシステム(CPS) の実装を進めています。
サイバーフィジカルシステムとは、デジタルツインを活用した最適な生産プロセスの構築のことです。
デジタルツインとは、IoTやセンサーなどを用いて現実の工場から収集したデータを、まるで双子(ツインズ)であるかのように、コンピュータ上で再現する技術のことです。
「例えば、製造ラインの稼働状況をデジタルツインでシミュレーションし、生産効率を最大化する手法が採用されていたりします。
つまり、次のようなサイクルを繰り返す新たな工場にすることです
- IoTやセンサーを工場内に配置し、様々なデータを収集
- クラウド上に収集したビッグデータを蓄積
- AIやディープラーニング技術を使用して分析や最適化を行う
- 工場内をFA化や自動制御し、生産プロセスを最適化する
こういった最適化の目的は、不確実性への対応 だといいます。
ロート製薬内の一つの工場に限らず、サプライヤー、物流業者、販売店を含めたサプライチェーン全体に広げることを目論んでいます。
収集したデータをリアルタイムで分析し、インシデントが発生したとしても、発生場所ではなくサプライチェーン全体で吸収することで、不確実性に対処しようとしている考えられます。
つまり、業界全体を巻き込んだ デジタルトランスフォーメーション の事例と言えます。
特に、サプライチェーンの問題は、世界全体の課題であり、現在は局所的な対処が求められています。
例えば、港湾ストライキや物流遅延などのインシデントが発生しても、サプライチェーン全体での最適化により、品切れや遅延を最小限に抑えることを目指しています。
ロート製薬では、そのような課題への取り組みを先進的に進めていると言えます。
引用: 日本のものづくりの「灯台」に。ロート製薬の次世代スマート工場が、製造業の未来を変える
まとめ
ロート製薬は多くの医薬品を取り扱うにあたり、現場DXを進めています。
まだまだアナログが残る工場のデジタルオプティマイゼーションを進め、時間コストの削減と知恵のストック化を実現。
さらなる業界全体の課題であるサプライチェーン問題の解決を進めるべく、デジタルツイン技術を活用したデジタルトランスフォーメーションにも着手しています。
「ロート製薬は、現場のデジタル化から始め、業界全体の課題解決に向けた取り組みを加速させています。今後はサプライチェーン全体を最適化するプラットフォーマーとして、医薬品業界のリーダーシップを発揮することが期待されます。
この記事の著者
R_IT戦略
ITストラテジストとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。政府系金融機関の勘定系システム再構築プロジェクトでは、複数チームの連携を強化し、設計と運用を主導。事業会社のマルチベンダー体制によるシステム開発では、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決を支援しました。
また、RPAやSaaSを活用した業務変革にも取り組み、業務プロセスの効率化や部門間の連携強化を実現。
ITストラテジスト協会(JISTA)正会員として活動しています。このサイトやXで、DXやIT戦略に関する情報を発信中です。
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