双日株式会社のDX人材育成KPI
サマリー
- 総合商社の双日は人材育成計画は定量目標を設定している
- 様々な「情報」を扱うため、DXが必要な事業
- 中期経営計画でも人的資産への投資を積極的にすることから価値創造を生み出そうとしている
- 具体的な人材育成の課題設定は他企業も参考になる
企業の基本情報
- 企業名: 双日株式会社
- 証券コード: 2768
- 2023年度売上: 2.4兆円
- 連結対象会社: 計433社
- 従業員数: 2,513人
- 事業内容: 総合商社として、物品の売買及び貿易業をはじめ、国内及び海外における各種製品の製造・販売やサービスの提供、各種プロジェクトの企画・調整、各種事業分野への投資、並びに金融活動などグローバルに多角的な事業を行っている
- 事業セグメント: 「自動車」「航空産業・交通プロジェクト」「インフラ・ヘルスケア」「金属・資源・リサイクル」「化学」「生活産業・アグリビジネス」「リテール・コンシューマーサービス」「その他」
営業収益は、総合商社で7位につけています。強みは、米ボーイング社の日本総代理店である航空機事業や海外での自動車販売事業です。
総合商社は、多岐にわたる事業領域を持ち、各社がそれぞれ異なる強みを発揮しています。 収益源は主に、商取引の仲介と事業投資の二本柱で、世界中の企業と幅広く関わっています。 また、集まった膨大な情報を活用することがビジネスの重要なポイントとなっています。
引用: 2024年3月期有価証券報告書
中期経営計画から読み解くDXに取り組む背景
- 企業理念: 双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します
- 2030年双日の目指す姿: 『事業や人材を創造し続ける総合商社』
- マーケットニーズや社会課題に応える価値 (事業・人材)創造を通じ、企業価値を向上
- 2026年までの中期経営計画: 「双日らしい成長ストーリー」の実現 - Set for Next Stage Next Stage
- 企業価値2倍成長の達成を見据え蒔いた事業の「種」、「点」を「塊」とし、成長を更に加速
- ヒトへの積極投資・強化
引用: 中期経営計画2026 ~Set for Next Stage~ (2024年5月1日公表)
総合商社は商取引や事業投資が中心であり、製造装置や特定の商材といった資産を持たない。 そのため、投資対象の事業や事業を推進する人が全てであり、人への投資を重視している。 同業他社の伊藤忠商事をはじめ、給与引き上げに積極的であり、他業界と比較して、給与水準が非常に高い。
自社の持つ情報の活用しデジタルトランスフォーメーションを目指すことだけでなく、投資対象の事業も変革を起こすために人的な投資を行うと考えられます。 特に、投資先に対しては、総合商社の従業員は経営者の立場で物事を考える必要があり、DXの考え方をもっている必要があると考えられます。
ただ、双日に関しては、下記記載の通り、個別(投資対象の事業)のDXを進めるとの記載がありました。
多数の事業モデルを有する総合商社業態では一律のDX施策の推進が困難である為、個別のDX施策を進め、それぞれの事業に適用しやすい実装の型を複数形成・知見の蓄積を進めています。
取り組み例:デジタル人材育成の目標設定
上記を踏まえて、デジタル人材育成について、目標とKPIが設定されている。 これは全社員が対象になっており、一部の情報システム部門だけでなく、全社をあげて取り組むこととして考えていることがわかる。 しかも、下記業績評価から人事制度にも盛り込むところまで踏み込んでいます。
個人業績評価の最大20%については、DXも含めた新たな挑戦を対象とすることを制度化しており、人事評価の仕組みと連動した形でDX促進を展開
引用: 双日株式会社 DX
特筆すべきところは次の箇所です。
- 全社員が「ITパスポート」の取得
- 導入として、わかりやすいKPI(指標)
- 全総合職が「IT技術の活用と運用」の理解
- IPAのDX実践手引書の記載通り、「組織全体の変革」を促すための目標となっている
- 全社員の25% は応用レベルのデジタル人材(5年以内)
- 特に 社外ベンダー企業との競争に必要となるIT文書スキル(要件定義等) を理解することが求められている
- 戦略的な外部ベンダーとの協業を意図している
投資先が使うシステムや業務に対して、概要でなく、定義書として理解する=発注者としてしっかりレビューをすると読み取れます。 ユーザ企業で4人に1人がしっかりと要件定義書をレビューできるスキルを持つというのは、IT理解が高い会社だと思います。
一方で、応用レベルであっても、「簡単なプログラミング開発の経験」となっており、実装部分は外部ベンダーに頼ることがわかります。 あくまでもビジネスモデルの構築が主であり、外部と協力して、実現していくことがわかります。 とにかく、IT人材を集めて、すべてを内製化するのではなく、リテラシーを高めて、対等な形で外部と協力して進めるのもDXの形の一つだと言えます。
この記事の著者
R_IT戦略
ITストラテジストとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。政府系金融機関の勘定系システム再構築プロジェクトでは、複数チームの連携を強化し、設計と運用を主導。事業会社のマルチベンダー体制によるシステム開発では、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決を支援しました。
また、RPAやSaaSを活用した業務変革にも取り組み、業務プロセスの効率化や部門間の連携強化を実現。
ITストラテジスト協会(JISTA)正会員として活動しています。このサイトやXで、DXやIT戦略に関する情報を発信中です。
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