レガシーシステムとは?2025年の崖とは?その意味をわかりやすく解説
レガシーシステムとは?
レガシーシステムとは、古い技術や設計で構築された情報システムを指します。 企業や組織が長年使用しているシステムで、運用に依存している一方で、最新の技術に適応できず、保守や運用に課題を抱えている場合が多いです。
主に以下のような特徴を持つものをレガシーシステムとして定義されていることが多いです。例:IPA DX実践手引書
- 技術革新が取り込まれず、著しく老朽化している
- ブラックボックス化している
- 肥大化・複雑化している(いわゆるスパゲッティ化が起こっている)
例えば、多くの銀行がまだ使用しているCOBOLで書かれた基幹システムは、技術者の減少とともにメンテナンスが困難になっています。 また、製造業では30年以上前に設計された独自システムが依然として使用されており、新しいデジタル技術と連携できないという課題を抱えています。
レガシーシステムの何が問題なのか?具体例で解説
レガシーシステムが抱える主な問題は次の通りです:
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運用コストの増加 古い技術に対応できるエンジニアが減少しているため、保守・運用のコストが増加します。 例えば、COBOLなどのプログラム言語を扱える技術者は年々減少しており、高額な費用を支払わざるを得ないケースもあります。 これは、システムが著しく老朽化していると言えます。
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技術的負債 システムが複雑化し、新しい機能の追加やシステムの改修が難しくなるため、業務効率化が進まない。これにより、競争力の低下が懸念されます。 IT担当も業務担当も仕様がわからず、現状維持を繰り返す状態になってしまっているシステムです。 これはブラックボックス化していると言えます。
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セキュリティリスク 古いシステムは最新のセキュリティ対策に対応していないことが多く、サイバー攻撃の標的になるリスクが高まります。 複雑化しているため、現状の分析や影響範囲の調査に時間がかかり、セキュリティリスクが検知できない、もしくは対処できないことがあります。 これは、肥大化・複雑化していることから発生する問題です。
2025年の崖とは何か?その背景と原因を解説
「2025年の崖」とは、経済産業省が提唱したレポートで指摘された課題で、主に日本企業のITシステムが抱える問題を指します。
レポート: DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
背景と原因
- IT人材不足: 古いシステムを扱える技術者が減少し、維持が困難になる。
- デジタル化の遅れ: 日本企業の多くがデジタル化への投資を怠り、レガシーシステムに依存。
- 競争力の低下: グローバル市場での競争力を維持するために必要なIT改革が進まない。
このような問題が進行し、2025年以降には日本全体で約12兆円もの経済損失が生じる可能性があるとされています。
2025年の崖が企業に与える影響とは?
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ビジネスの成長停滞 レガシーシステムの制約によって、新しいサービスやビジネスモデルを迅速に展開できなくなります。
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コストの急増 システム維持費用が増加し、他の重要な投資に回せる資金が減少します。
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ブランドイメージの低下 システム障害が頻発することで、顧客からの信頼が低下するリスクがあります。
上記レポートでは、2017年の調査ですが、IT予算の8割が現状維持に割り当てられているようです。 そのため、将来の投資に充てられるIT投資は少ないのが現状です。 2025年の崖を迎えると、人材の問題から今までの予算でも賄えなくなるリスクが高まります。
レガシーシステム移行の考え方:4つの分類と具体策
レガシーシステムの移行は、以下のようにシステムの特性や使用状況に応じて分類し、最適な対策を講じることが重要です。
ITシステムの4つの分類
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頻繁に変更が発生する機能 → 再構築
- 例: ECサイトのフロントエンドや商品管理システム。
- 完全に新しいシステムに再構築し、現代のニーズに合った設計を採用します。
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変更されたり、新たに必要な機能 → 適宜追加
- 例: 顧客データ分析用のモジュール。
- 既存のシステムに新しい機能を追加し、必要な部分だけ更新します。
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肥大化したシステムの中に不要な機能 → 廃棄
- 例: 使用されていないデータベースや帳票機能。
- 利用されていない機能を廃止し、システムを軽量化します。
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あまり更新が発生しない機能 → 塩漬け
- 例: 過去の売上記録や帳簿管理システム。
- 新しいシステムとは連携せず、アーカイブ化して最低限の維持管理を行います。
段階的に進めるレガシーシステム移行の方法と成功のポイント
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現状把握 既存システムの現状を徹底的に分析し、課題を明確化します。
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優先順位の決定 コストや影響度を考慮し、移行対象を優先順位付けします。
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小規模からのスタート いきなり全システムを移行するのではなく、小さな範囲で試行(PoC)を行い、効果を検証します。
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段階的な実行 順序立てて移行を進め、リスクを最小限に抑えます。
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運用の見直しと教育 新しいシステムの運用体制を整備し、社員への教育を徹底します。
段階的な移行を進める中でよくある課題
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仕様が不明で進まない移行作業:As-IsからTo-Beへ 現状維持(As Is)ではなく、あるべき姿(To Be)を考えます。 業務を変えるのも大事な決断です。
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データ不整合のリスク:テストを削らない重要性 移行は、検証、テストをしっかり時間をかけておこないます。 よく開発に時間がかかり、テスト工数を削減したりするケースがありますが、絶対に行ってはいけません。 データ不整合から障害が発生するケースが非常に多いです。 実際に、プッチンプリンやカフェオーレなどのグリコは、基幹システムの移行時に障害が発生しました。 物流センターでの出荷に関するデータ不整合のため商品の出荷は完全停止。特別損失56億円計上となってしまいました。
詳細は「グリコのシステム障害のまとめ」をご覧ください。
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社員の抵抗感:現場の声と全体最適のバランス システムが切り替えると慣れるまで、使いにくいということがよくあります。 現行業務の維持に対する意見は重要ですが、全体最適を目指すことが成功のカギとなります。 実際に、証券会社の野村ホールディングスとシステム開発を受託したIBMは裁判になり、当初の稼働予定を守れず裁判。 しかし、遅れた原因が現状維持にこだわった野村HD側の問題として、野村HDの敗訴となってしまいました。
詳細は「逆転敗訴した野村情シスがIBMに送った悲痛なメール、横暴なユーザーを抑えきれず 」をご覧ください。
3の社員の抵抗感を減らして、新しいシステムに慣れていくためにもユーザー部門も参加したアジャイル開発を推進することも1つの解決策です。 アジャイル開発では、現場の声を直接反映し、継続的な改善を繰り返すことで、導入時のギャップやトラブルを最小限に抑えることが可能です。 この手法は、特に現場の実用性を重視した開発プロジェクトに効果的です。
まとめ
レガシーシステムの移行は、単に新しいシステムに置き換えるだけではなく、企業の競争力を強化するための重要な施策です。 「2025年の崖」を乗り越えるためには、現状を正しく把握し、適切な優先順位で段階的に進めることが必要です。
まずは、自社システムの現状を評価し、小規模な試行プロジェクトから始めてみましょう。
この記事の著者
R_IT戦略
ITストラテジストとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。政府系金融機関の勘定系システム再構築プロジェクトでは、複数チームの連携を強化し、設計と運用を主導。事業会社のマルチベンダー体制によるシステム開発では、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決を支援しました。
また、RPAやSaaSを活用した業務変革にも取り組み、業務プロセスの効率化や部門間の連携強化を実現。
ITストラテジスト協会(JISTA)正会員として活動しています。このサイトやXで、DXやIT戦略に関する情報を発信中です。
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