スサノオ・フレームワークの考え方の骨格:従来のシステムとDX以降のシステム

経済産業省のIT政策実施機関である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、DX時代に求められるITシステムの新たな構成モデルとして「スサノオ・フレームワーク」を定義しました。

DX時代のITシステムは、顧客価値を最大化するための柔軟性と連携性が求められています。この課題を解決するため、IPAが提案した「スサノオ・フレームワーク」は、日本神話にヒントを得た画期的な構成モデルです。

初出は「DX実践手引書 ITシステム構築編(完成第1.1版)」ですが、専門用語が多く、経営者や企画部門の担当者には難解に感じられるかもしれません。

本記事では、日本神話に由来する「スサノオ」の背景から始め、従来のITシステムとの違いに特化して、スサノオ・フレームワークの基本をわかりやすく解説します。

スサノオフレームワークの由来:日本神話がヒント?

スサノオフレームワークは、日本神話に登場する神「スサノオ」に由来します。スサノオは、多面性を持つ神として知られています。

暴風の神であるスサノオは、荒ぶる神として、厄払いの象徴です。 一方で、ヤマタノオロチという八つの頭と尾を持つ大蛇の怪物を退治しました。大暴れする大蛇を知恵を使って打ち倒しました。 退治したヤマタノオロチの尻尾から出てきたものが三種の神器の一つである草薙剣です。

この神話に基づき、スサノオフレームワークでは、「レガシーシステム(ヤマタノオロチ)」を解体し、本質的な価値(草薙剣)を取り出すという考え方が根底にあります。

従来のITシステムに潜む3つの課題

従来のITシステムには、以下のような課題がありました。

  1. モノリシック構造の限界 モノリシックとは、単一という意味です。 つまり、各業務ごとに独立したシステムを保持し、必要に応じて個別のサブシステムで連携を行う形が一般的でした。 しかし、この構造は変更や拡張が困難で、全体の柔軟性を損なってしまいます。 いわゆる、レガシーシステムとなっており、継ぎ足しされたソースコードにより、スパゲッティ化してしまうことが多くあります。

    参考:レガシーシステムとは?2025年の崖とは?その意味をわかりやすく解説

  2. 顧客価値の分断 顧客に価値を与えるサービスと基幹業務が連携しないため、顧客情報の共有が難しく、データ活用が進まないという問題があります。 例えば、経理部門のシステムと顧客情報を管理するシステムが連携しないことで、与信に問題のある顧客に対して、金額の大きい商談を進めてしまい、契約の段階になってトラブルが発生するような事態も考えられます。

  3. 外部データとの連携不足 連携を前提としないため、外部データを活用した新たなサービスの展開が困難でした。 例えば、基幹システムに存在する住所情報と一般的に公開されている法人番号データのWebAPIの連携ができず、名寄せやインボイス対応に時間がかかるといったことが発生しています。

スサノオ・フレームワークで解決できる3つのIT課題

スサノオ・フレームワークは、これらの課題を解決するために次の3つのポイントを重視しています。

1. マイクロサービスアーキテクチャ

機能単位でシステムを分割し、各機能が独立して運用されます。これにより、変更や拡張が柔軟になります。 例えば、現行の経理システムは複数の業務を行っていますが、それを、販売管理、請求管理、債権管理に分割することで、全体のシステムを見直すことなく、制度対応などが迅速に行いやすくなります。

2. 連携を前提とした設計

システム間の連携はWebAPIなどの共通プロトコルを使用して行われ、データのやり取りが効率化されます。

参考:APIとは?初心者向けに仕組みと活用方法をわかりやすく解説

3. データ活用基盤の構築

基幹業務やサービスが共通のデータ基盤を参照することで、データ活用がスムーズに行える環境を整備します。 共通のデータ基盤を構築することで、例えば以下のような活用が可能になります:

スサノオ・フレームワークの本質:データを中心としたIT構築

スサノオ・フレームワークでは、業務単位ではなくデータの流れを重視します。

まとめ:スサノオ・フレームワークを自社で活用するために

スサノオ・フレームワークは、DX時代のITシステムに必要な柔軟性と連携性を備えた構成モデルです。日本神話に由来する背景を理解し、従来のシステムとの違いを把握することで、その本質が見えてきます。

あくまでもフレームワークであり、これを活用してシステム構成を考えることが大切です。

スサノオフレームワークの導入には段階的なアプローチが必要です。現状システムの分析と、マイクロサービスアーキテクチャへの移行計画をしっかり立てることが成功の鍵となります。

次のステップとして、まずは自社システムがスサノオフレームワークに適応可能かを検討し、段階的に取り入れていくことを目指しましょう。

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R_IT戦略

ITストラテジストとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。政府系金融機関の勘定系システム再構築プロジェクトでは、複数チームの連携を強化し、設計と運用を主導。事業会社のマルチベンダー体制によるシステム開発では、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決を支援しました。

また、RPAやSaaSを活用した業務変革にも取り組み、業務プロセスの効率化や部門間の連携強化を実現。

ITストラテジスト協会(JISTA)正会員として活動しています。このサイトやXで、DXやIT戦略に関する情報を発信中です。

@R_IT_strategic

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