DX実践ガイド - 自社で取り組む方法
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DX(Digital Transformation: デジタル変革)とは、 データとデジタル技術を活用し、既存ビジネスモデルの深化や業務変革・新規ビジネスモデルの創出を行う取組です。
この実践ガイドでは、DXの意味や考え方から自分たちで実施する方法や手順までを詳しく、初心者にもわかりやすく解説しています。 デジタルトランスフォーメーションとはどういうものか知りたい、自ら取り組みたいと考えている中小企業の経営者や感度高い企画部門の方向けに記事を書いています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味
本質
DX(Digital Transformation: デジタル変革)とは、 データとデジタル技術を活用し、既存ビジネスモデルの深化や業務変革・新規ビジネスモデルの創出を行う取組です。 DXを実施することで、顧客提供価値や収益性などが向上すること、生産性を高めや従業員エンゲージメントの向上が期待できます。 DXは難しいものから始める必要はなく、手の届くところから実践することができます。
このガイドは実践のための解説ページです。DXの概要と考え方やアクションプランを紹介しているほか、 文中のリンクをたどることでより詳しい内容にアクセスできます。 このガイドの内容をざっと理解したら、さっそく自分たちでDXに取り組んでみましょう。 固有のIT・AI技術を学ぶのは実践しながらの調べていけば十分です。 このガイドは、中小企業の経営者が自分たちでDXを実践するためのハウツー情報サイトです。
ITストラテジスト協会正会員の私が、経験や収集した情報や公的な情報を典拠として明示することで、情報の正確性をお約束します。 不明点があれば、 Xの@R_IT_strategic 宛にDMでお気軽にご質問ください。
DXを実現するための考え方
IT・システム・AIなどはわからないと逃げ出さないでください。 もちろん、デジタル技術を使った活用が求められていますが、一番大事なのは社会や顧客ニーズに応えようとする経営者の覚悟です。
なぜなら、DXに取り組むことは目的ではなく、組織のビジョンを実現するための手段だからです。 そのために、システムはシステム業者におまかせ、IT担当におまかせといったことのないように経営者自らが主導権を握るようにしましょう。
はじめにやるべきこと
DXの起点は「目指すべきビジョン」の策定と共有です。 デジタルトランスフォーメーション=デジタル変革の意思決定ができるのは経営者だけです。 組織や業務のありかたをなぜ変革するか、どう変革するかを決める必要があります。 なぜ、管理職や情報システム部門ではなく、経営者であるかの理由がここにあります。
変革は数ヶ月や翌年といった形で実現することはできません。 5年~10年というスパンで自分たちの業界がどうなって、自分たちはどういう役割を果たすか。 その大きなスケールで考えていく必要があります。
あるべき組織
変革にあたって、どういう組織であるべきか。企業のゴールや方向性、つまりビジョンによって変わります。 しかし、DXや新たな取組を成功に導くにあたっての共通点はあります。
- 経営トップによるDXに対する強い考えが組織に腹落ちしている
- 失敗を否定せずに、次に活かしていく
先に決めたビジョンが絵に描いた餅になっておらず、5年、10年後の未来を現実とするための行動を取れるかにかかってきます。 そのためには、組織=従業員がそのビジョンをしっかり理解していることが重要です。
また、ビジョンを実現するには大きな困難が伴うのが、通常です。 つまり、一つの取り組みがうまくいかない可能性も十分にあります。
しかし、失敗に終わったとしても、間違っていたと考えずに、その経験を糧に次のプロジェクトに活かすことが重要です。 システム開発は大規模になるにつれて、不確実性が増します。 当初決めた状況や想定した環境から変わることもありえます。 そのような難しいタスクを乗り越えるには、組織のあり方と、次の開発力とマインドも重要になります。
システム開発力と人材育成
DXはデジタル化とは切り離せません。そのため、システム開発力が必要になってきます。 その開発力の根本は人材です。 システム開発はすべて外部に任せ、社内での運用は総務と兼務して必要最小限にしていませんか。 IT人材は育たないので、当然デジタル変革など起こせるはずもありません。
新規で採用するにしても、理系の新卒学生やとりあえずシステム会社にいた人を採用していませんか。 これでは、システムに関する素養があっても、事業のことがわからず、システム運用が強化される可能性があるだけです。
本当に必要な人材とは、事業、技術、経営がわかる「ヤタガラス」※です。
しかし、そんな完璧な人はそもそも少ないことから採用は非常に難しいです。
※ヤタガラス(八咫烏)とは、神武天皇の建国説話に登場する想像上の三本足の烏(からす)
社内の開発体制を整えることから考えましょう。 外部に頼っているところを少しずつ社内でもできるようにしていきます。 一般的な開発プロセスは、
- 企画
- 設計
- 製造、コーディング
- テスト
- 保守運用
2や3の設計やコーディングは専門性が高く、外部に頼ることが多いです。 DXの取り組みが進んでいる企業であっても、ここ部分は協力会社が行うことが一般的です。
しかし、システム企画やテストなどは実際に使う現場の意見やあるべき業務プロセスから考えるべきです。 その答えを知っているのは、社内の人間しかいません。
その上で、外部に発注するスキルを形成していきましょう。
システムを作らせる技術も必要なスキルです。
参考:▶ 双日の人材育成・・・投資先の事業に入り込みIT人材とともにビジネスを変革
従業員のマインド形成
DXは変革である以上、初めての取り組みになることや失敗がつきものです。 そのために、従業員が「アジャイル」マインドを持っていることが重要です。 アジャイルとは、英語でagileと書き「素早い」「機敏な」という意味です。 一般的には、「状況の変化に対して素早く対応すること」を意味しています。 ソフトウエア開発に用いられる際に、アジャイルソフトウェア開発宣言がよく引用されます。
- プロセスやツールよりも個人と対話を、
- 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
- 契約交渉よりも顧客との協調を、
- 計画に従うことよりも変化への対応を、価値とする。
つまり、はじめに決めたことをやり遂げるよりも環境の変化に合わせて、成果物を変えていく必要があるのです。 計画時点でわからなかった新たな課題を解決するように開発物を変えていき、徐々に事業環境にあったシステムにしていくことが重要です。
よくある間違い
経産省の公表している「DX実践手引書」には、次のように書かれています。
何かを「単にデジタル化すればDX」、「技術的に刷新すればDX」という誤解を避けたい
—DX実践手引書 ITシステム構築編
DXのあり方を考えるうえで、すべての間違いはこの一文に集約されます。- 手書きの明細書をシステム導入して、ペーパーレスにした
- 顧客管理データベースを構築して、情報を集約した
- ECサイトをオープンしてネット販売をはじめた
いずれも手段として間違いではありません。しかし、それが会社の変革につながっているかは見直す必要があります。 もし、これらがすでに実施されているのであれば、次の観点で取り組みを継続していきましょう。
継続することが大事
ビジョンを作成して、組織に落とし込んで一段落ですが、DXはここからスタートになります。 この大きな取り組みを継続することが何よりも大事です。
オプティマイゼーションとトランスフォーメーション
DXは事業変革であると書きました。しかし、いきなり大きな変化を起こすことは当然難しいです。 そのため、次のようなステップを踏むことが推奨されています。
- デジタルオプティマイゼーション
- 一部の業務改革
- 企業全体の業務変革
- 取引先も含めた業務変革
- デジタルトランスフォーメーション
- 顧客体験の変革
- 市場での競争力の変革
- 市場での立ち位置の変革
- 社会の変革
本来の意味でのデジタルトランスフォーメーションは、4以降になります。
しかし、その手前の1~3ができていない中小企業が多数あります。
5~10年のスパンで7を目指しますが、1~3でできることから着手していくことを推奨します。
7に行くためのステップとして、1~6を考えてみます。
そのために、必要な工程がロードマップの作成です。
参考:▶ 日本瓦斯のロードマップ・・・エネルギー小売からの脱却
ロードマップを作成する
ロードマップとは、目標となる未来(上記の7)を起点に、現在を振り返りできる道程である。 また、その道程を考えることをバックキャストとよぶ。 つまり、ビジョンを実現するためのDX実践に向けた具体的な戦略と計画を練るのである。
その計画には、いつまでに、どういう状態になっているか、言い換えると「マイルストーン」を置くのである。 マイルストーン実現のために、経営層は約束をして、ヒト・モノ・カネを投資し、デジタル人材が推進するのである。
また、このマイルストーンは、事業環境の変化により、見直しても良い。 むしろ、はじめからロードマップがきれいに引け、一刻の遅延もなく進むことはまずありえない。 変化を前提に、ロードマップを見直ししていくことを必要である。これもアジャイル的な見直しの一環です。
自ら始めてみましょう!
DX推進指標による自己診断をしてみる
経済産業省所管の独立行政法人である情報処理推進機構(通称IPA)では、社内の現状や課題を把握するための自己診断フォーマットを提供しています。
全部で62問あり、6段階評価で回答するようになっています。
ボリュームは多いですが、現時点とそのアクションを把握するために重要な自己診断となっています。
まずは、これを使って、自社の現状とネクストアクションを考えてみましょう。
▶ DX推進指標による自己診断
10年後、20年後の自社を取り巻く状況を想像してみる
自社や自社を取り巻く業界、そして社会全体。これらがどう変化するか。 2010年頃からVUCAの時代※とよばれてから時間は立つが、一層のこと将来の予測は困難である。 突然、自社のビジネスモデルを破壊しうる新たなビジネスが立ち上がるかもしれません。
そのため、 社会や顧客のニーズに応えるためにできること、社会の変化に対応するためにできることをデジタルの視点から考えていく必要性が高まっています。今現在見えている変化を調べたり、想像してみることも重要です。
※VUCAとはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語
ある部門の業務を対象として1つ取り組んでみる
「オプティマイゼーションとトランスフォーメーション」で記載したレベルに応じて、なにか一つ取り組んでみましょう。 経営者としてコミットメントして、できる限り社内のリソースを活用してみましょう。 できないこと、わからないことがあってから社外に協力を求めてみましょう。
まとめ
DXに関して、中小企業が今できることをまとめてみました。 まずは、自社がどうなれば、5年後、10年後の顧客ニーズに応え続けていけるのか。 その解答を用意するためのビジョンの策定。
そして、それを実現するためのロードマップを描いてみましょう。 その道程を歩くには、組織や人材を育てていきましょう。 道中、大きな崖や険しい山道もあります。 それを乗り越えるか、回り道するか、色々方法はありますが、歩き続ければ目的地に到達できます。
脚注
本サイトの運営者
R_IT戦略
ITストラテジストとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援しています。政府系金融機関の勘定系システム再構築プロジェクトでは、複数チームの連携を強化し、設計と運用を主導。事業会社のマルチベンダー体制によるシステム開発では、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決を支援しました。
また、RPAやSaaSを活用した業務変革にも取り組み、業務プロセスの効率化や部門間の連携強化を実現。
ITストラテジスト協会(JISTA)正会員として活動しています。このサイトやXで、DXやIT戦略に関する情報を発信中です。
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